インクジェットプリント用紙の特性
伊勢和紙 伊勢斐紙 風雅
【特徴】
「伊勢斐紙 風雅」(いせひし ふうが)は、土佐産の楮(こうぞ)50%と加賀産ガンピ50%の材料を使い、手漉きで仕上げられた用紙である。ガンピは和紙の高級素材で、古くから雁皮紙(がんぴし)は和紙の中でも格別のものとされてきた。楮、ガンピともに日本産のものを使用しているので、品質的に優れた用紙となっている。
ガンピやバショウを配合した和紙は一般的に微光沢感と濃度感を伴うシャープな印刷が可能となるが、とくにガンピを使うと表面が美しく滑らかで、かつ細かい描写もくっきりときれいに印刷される。
「風雅」はその最高材料であるガンピの長所と、楮のソフトな仕上がりとが相まって、重厚でディテールに優れた品位の高いプリントを手にすることができる。和紙の代表格というにふさわしい仕上がりである。
黒や色の濃度についても、伊勢和紙ラインアップの中でも秀逸である。
「風雅」のラインアップには単層紙と二枚重ねの2種類があるが、単層紙は用紙厚が薄くて透けるので、写真プリント用紙として取り扱いやすいのは二枚重ねである。
A4パッケージ品より大きいサイズは菊判(およそ97cm×63cm)となる。菊判からはA2サイズで2枚、A3ノビサイズ2枚+A4サイズ3~4枚という切り出し方となるので、注文時に裁断が必要な場合、寸法を指定して注文することになる。
ちなみに菊判を、縦2×横2枚の計4枚で裁断した場合の寸法は、A3ノビの短辺側が少し短いサイズ(483×315mm)となるが、取り数にむだがないので、この裁断寸法もおすすめである。
【使いこなし方】(注意点)
インクは基本的に顔料インク、黒についてはマットブラックインクを使用する。
伊勢和紙はとくに薬剤使用によるインクジェット印刷用の適性化を行なっていないので、裏表の両面にプリントすることができる。
手漉き和紙にはざらざらとした「粗面」となめらかな「滑面」があり、裏表の印刷特性の違いはとくにないが、滑面のほうが和紙のケバが多いので注意が必要である。粗面側にプリントしたほうが、プリンターヘッドのケバ付着による汚れの恐れはやや小さくなる。
印刷時にはプリンターヘッドギャップやプラテンギャップは通常用紙よりも広めに設定した方がいいだろう。
【評価】
1)紙白の印象、蛍光増白剤 → 3
品位の高いアイボリーホワイト(b*=8)。暖色系の色再現に適した紙白である。
和紙なので蛍光増白剤は一切含んでいない。
2)風合い(面質、テクスチャー) → 5
楮とガンピを手漉きで仕上げた「風雅」は、粗面、滑面とも高級感にあふれた格調高い和紙の風合いをもつ。
3)階調性、黒の濃度、暗部コントロールのしやすさ → 3
ガンピの配合により和紙としては黒や色の濃度がとても高く(L*で21程度)、マット紙に迫る豊かなコントラスト感を表現できる。
ただ、和紙独特の繊維感のある色ベタ面となるため、光の状態により黒の濃度感が異なって見えることがある。
4)解像感 → 4
ガンピの配合により、シャープでなめらかな描写のプリントが実現される。
5)発色 → 3
和紙の中では黒や色の濃度が比較的高く、鮮やかな発色が得られるが、マット紙に並ぶというほどではない。
控えめな発色が魅力である。
(総合評価) → 5
原材料がすべて日本産なので高価だが、和紙としてそれに見合う堂々とした風格を感じる質感、シャープ感、鮮やかさが得られる手漉き和紙である。
写真プリントとして和紙の風合いを表現するという点で王座に君臨する用紙といっても過言ではないと思う。
ただ、 使いこなしには階調を見極める目と、適切な画像補正の熟練を要するかもしれない。
【L*a*b*の測定結果】カラーモード (ICCプロファイル知覚的)
L*
a*
b*
- L*の階調特性は和紙としては黒の濃度が出るほう
- a*はとくに偏りがない
- b*は紙白に向かって素直な特性
プリンター:Epson PX-5V、マットブラックインク、UltraSmooth Fine Art Paper設定(超高精細)
ICC Profile : X-rite i1Profiler/i1iSis
【L*a*b*の測定結果】モノクロモード(Epson PX-5V)
L*
a*
b*
- L*の階調特性はシャドウ部分で少し暴れがある
- a*に偏りがないのでモノクロモードで使いやすい
プリンター:Epson PX-5V、マットブラックインク、UltraSmooth Fine Art Paper設定(超高精細)
【用紙テクスチャー(粗面)とプリント色】
【プリント後の彩度と明度変化】
[3]
赤(R)の彩度はあまり高くないが、和紙としては高いレベル
[5]
黄(Y)の彩度は素直で鮮やかな発色
[3]
緑(G)は和紙としては標準的
[4]
シアン(C)の彩度はまずまずのレベルである
[3]
青(B)やマゼンタ(M)は一般的に和紙が苦手とする色で、彩度が上がらない
[2]
マゼンタ(M)はとくに彩度が上がらない
6色の平均点=3.3
伊勢和紙[伊勢斐紙 風雅二枚重ね] 前田 歩(Alfo Maeta)さんの使用感
作品に合う紙を見つけるためさまざまな紙を試してきた前田さん
前田さんが使用してきた用紙の変遷
伊勢和紙 未晒し純楮(土佐楮100%)
アワガミ プレミオ楮
伊勢和紙 大直紙(タイ産楮33%、フィリピン産バショウ67%)
伊勢和紙 伊勢斐紙 風祥(加賀雁皮50%、フィリピン産バショウ50%)
伊勢和紙 伊勢斐紙 風雅二枚重ね(加賀雁皮50%、土佐楮50%)
※伊勢和紙は粗面にプリント
40年前の父の版画作品
和紙を使用する動機
父が版画をやっていたため、子供のころから身近に和紙があり、それで遊んでいました。父は和紙に西洋を題材にした作品を作っていましたが、私は日本人として日本を題材として、日本の和紙を使いたいと思いました。
写真展会場でスポット光を当てたときの前田さんの作品
楮の繊維感が暗部に表情を出す
さまざまな和紙を使ってきましたが、私のいまの作品には風雅二枚重ねが合うと思っています。いちばんの理由は楮の繊維感があることによって、シャドウ部の階調表現ができることです。写真展会場でスポット光などが当たると、森の黒い部分に表情が出ます。楮の繊維感によるシャドウ部のこの表現が私の作品には不可欠なものだと感じています。
雁皮の繊維感が解像感を強調
解像感のあるハイライト部と雁皮の繊維感が一致し、スポット光が入ることで繊維の精彩感がより強調されます。プリントした際の解像感にはこだわっていて、いろいろと研究してみましたが、データ上でつくるシャープ感よりも和紙の繊維感でつくるシャープ感のほうが見た目の解像感を感じさせてくれます。
伊勢和紙の原料となる楮や雁皮の皮(左)と粘剤となるトロロアオイ(右)
国産の原料を使用
日本人としての表現をしていきたいという主旨から、和紙を選択したのと同様に、その原料が「国産原料」であるという点にも惹かれました。
手漉きの伊勢和紙(伊勢斐紙を含む)はすべて国産原料を使用しており、私が使用している風雅二枚重ねも加賀雁皮と土佐楮が50%ずつ使われています。
手漉きでつくられる伊勢和紙の製作現場。左上が伊勢和紙の中北社長
作り手の顔が見える紙
SAMURAI FOTOメンバーでもある伊勢和紙の中北社長はよく知っている方です。ご自分でも写真作品をつくられています。私が使用する紙の作り手が信頼できる方であることもこの紙を選択する大きな理由の一つです。