用紙の達人が解説する
インクジェットプリント用紙の特性

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用紙の達人が解説する インクジェットプリント用紙の特性

昨今、さまざまなインクジェットプリンター用のプリント用紙が販売されています。光沢紙や半光沢紙のように適切に調整されたディスプレイなら画面で見たイメージどおりにプリントできるものもあれば、マット紙やコットン紙のようにディープシャドウ部の階調がつぶれがちなものもあります。日本で販売されている多くの和紙にいたっては、マット紙よりもさらに黒の濃度が出にくく、コントラストも低くなります。和紙ではテクスチャーの影響が大きいので、より使いこなしは難しくなります。

ここではそれぞれの用紙の特性を測るとともに、その[特徴]と[使いこなし]、[評価]をまとめています。また、その用紙を実際に使用しているSAMURAI FOTOメンバーによる使用感を語ってもらっています。

写真でアート作品を目指す世界中のフォトグラファーの方々に、このデータが少しでもお役に立てればと考えています。

 用紙の達人が解説する インクジェットプリント用紙の特性

村田光司 Koji Murata

長年、日本の大手電機メーカーにて写真用ディスプレイの開発に携わり、プリント用紙の表示特性をディスプレイ画面上で表示シミュレーションするソフトウェアの開発を手がける。SAMURAI FOTOメンバーとして自身の作品づくりを行なうとともに、最新のプリント用紙の特性を研究。それぞれの用紙の傾向をひも解きながら、使いこなしのノウハウを勉強会やセミナーで披露している。

評価基準の数値について

1)紙白の印象、蛍光増白剤

紙白の色合いは写真プリントの印象に大きな影響を与えます。
暖かい色調で表現したい場合は、紙白が黄色傾向のほうが心地よく、クールな色調で表現する場合は、紙白が青みかがった用紙のほうがマッチします。
また、紙白に[緑~マゼンタ]の色の偏りを含むものは発色に悪影響を与え、使いにくい用紙となります。
一方、蛍光増白剤が多く含まれる用紙は、光源により紙白の色が異なって見えることがあり、また漂白効果が経年変化で薄れ、紙白の黄ばみが生じるため、アートプリントにおいては蛍光増白剤を含む用紙は敬遠される傾向にあります。
ここでは、紙白がニュートラルに近い白(b*=0~3程度)のものを5、極端に青みもしくは黄色みの強いものを1として評価しますが、点数は良し悪しを意味するものではありません。あくまで作品意図によって紙色を決めることになります。
ただし、[緑~マゼンタ]の色の偏りのあるもの、蛍光増白剤が使用されている場合はその度合いに応じて減点します。

2)風合い(面質、テクスチャー)

用紙の面質、テクスチャーも写真プリントの印象に大きな影響を与えます。
ここでは、どのような写真画像にも汎用的に使いこなしやすいかどうかという観点で、主観的に5段階で評価しています。
あくまで無難に何でも使えるかどうかという評点ですので、作品意図をより高めることを必ずしも意味しません。
作品性を高めるための選択かどうかについては別の視点で評価する必要があり、これは作品意図により大きく変動します。
ここでの評点に関わらず、コメントのほうを参考になさってください。

3)階調性、黒の濃度、暗部のコントロールのしやすさ

用紙のハイライト側の特性はどの用紙の場合でも共通して安定しているのに対し、シャドウ側の階調特性や黒の濃度は用紙によって異なります。
また、プリンターによってもシャドウ側の階調特性は異なります。
ここではシャドウ側の階調特性と黒の濃度の観点から、暗部のコントロールのやりやすさについて5段階で評価します。

4)解像感

用紙によっては輪郭の解像感がシャープなものとソフトなものがあります。シャープ感を5段階で評価します。

5)発色

用紙によっては高い彩度まで出る紙と彩度があまり出ない用紙があります。彩度の表現力を中心に5段階で評価します。評点はRGBCMYの6色の彩度を各色5段階で評価した平均点(四捨五入)を基準とします。(後述「彩度の測定」参照)。

L*a*b*グラフの読み方

【 L*のグラフ 】
L*のグラフの読み方
プリント用紙に出力した際に各階調がどのような明るさで印刷されるかを数値で表わしたものです。
横軸は元画像の各階調(明るさ、0[黒]~100[白])、縦軸はプリント出力の階調です。
例えば、横軸の数値がゼロで、縦軸の数値が20だとすると、真っ黒(L*=0)の画像をプリントした結果は真っ黒ではなく、画面でL*=20相当に見えるグレーでプリントされて仕上がることを意味します。

【 a*のグラフ 】
a*グラフの読み方
各階調の中性のグレーが緑またはマゼンタに色かぶりしている度合いを表わします。横軸はL*同様、元画像の階調(明るさ、0[黒]~100[白])です。a*がプラスの場合はマゼンタ、マイナスの場合は緑に偏っていることを示します。
基本的にはa*はゼロに近いほうが好ましいといえます。

【 b*のグラフ 】
b*グラフの読み方
各階調の中性のグレーが黄色または青に偏っている度合いを表わします。横軸はL*同様、元画像の階調(明るさ、0[黒]~100[白])です。b*がプラスの場合は黄色、マイナスの場合は青に偏っていることを示します。b*は紙白にも大きく影響され、階調が明るくなるにしたがってインク量が少なくなるため紙地が露出してきます。そのため、紙色が黄色い用紙の場合はプラス側に、紙色が青い用紙の場合はマイナス側に振れていきます。

彩度の測定(HSB表色系)

彩度の測定(HSB表色系)

明度75%の原色(R,G,B,C,M,Y)について、彩度を0~100%(10%毎)で変化させたチャート(sRGB)をプリント出力し、印刷結果の彩度(および参考値として明度変化)を測定しています。

(出力条件)
  プリンター:エプソンPX-5V、X-rite i1iSis/i1Profilerで作成したICCプロファイルを使用
  マッチング方法:「相対的な色域を維持」で出力

彩度の測定2(HSB表色系)

彩度の測定2(HSB表色系)

彩度100%の原色(R,G,B,C,M,Y)について、明度を0~100%(10%毎)で変化させたチャート(sRGB)をプリント出力し、印刷結果の彩度(および参考値として明度変化)を測定しています。

(出力条件)
  プリンター:エプソンSC-PX3V、X-rite i1iSis/i1Profilerで作成したICCプロファイルを使用
  マッチング方法:「知覚的」で出力

彩度の測定3(HSB表色系)

彩度の測定3(HSB表色系)

エプソンSC-PX3Vでの測定からは、彩度100%の原色(R, G, B, C, M, Y)について、明度を0~100%(10%毎)で変化させたチャート(上図、sRGB)をプリント出力し、印刷結果の彩度(および参考値として明度変化)を測定しています。

(出力条件)
  プリンター:エプソンSC-PX3V、X-rite i1iSis/i1Profilerで作成したICCプロファイルを使用
  マッチング方法:「相対的」で出力

彩度グラフの見方

彩度グラフの見方

彩度グラフの見方2

彩度グラフの見方2

彩度グラフの見方3

彩度グラフの見方3

彩度の判定基準

  5点 4点 3点 2点 1点
R 100~85% 84~70% 69~50% 49~25% 24~0%
Y 100~85% 84~70% 69~50% 49~25% 24~0%
G 100~85% 84~70% 69~50% 49~25% 24~0%
C 100~70% 69~60% 59~50% 49~25% 24~0%
B 100~85% 84~70% 69~50% 49~25% 24~0%
M 100~70% 69~60% 59~50% 49~25% 24~0%

※ 元画像の彩度100%に対するプリント後の彩度の値について、上記6色毎に評価し、6色の評点の平均点(小数以下四捨五入)を「発色」の総合評価点数としています。

彩度の判定基準2

  5点 4点 3点 2点 1点
R 700~500% 499~430% 429~370% 369~300% 299~0%
Y 700~600% 599~500% 499~450% 449~400% 399~0%
G 700~500% 499~430% 429~370% 369~300% 299~0%
C 700~450% 449~400% 399~350% 349~300% 299~0%
B 700~600% 599~450% 449~350% 349~250% 249~0%
M 700~450% 449~350% 349~270% 269~200% 199~0%

※ 上記6色毎に明度40/50/60/70/80/90/100%の各彩度(%)値を合計して色ごとの評点を算出し、6色の評点の平均点(小数以下四捨五入)を「発色」の総合評価点数としています。(700点満点)