インクジェットプリント用紙の特性
伊勢和紙 芭蕉

【特徴】

伊勢和紙Photoシリーズの一つである「芭蕉」は、バショウを原料に化学粘剤を使用した機械漉きの和紙である。用紙厚は0.27mmで、用紙のコシがしっかりしている。
この用紙は和紙の中では輪郭感と黒の濃度がとても優れているのが特徴である。発色は多くの和紙と同じように控えめで柔らかく、絵柄に和紙独特の風合いを加味してくれる。
マット紙並みの繊細さと和紙の風合いを両立させてくれるという点ではアワガミA.I.J.Pシリーズ和紙と並ぶが、輪郭がとにかくシャープに出るという点で他の和紙とは一線を画する。黒濃度もしっかり出るのでコントラスト感が際立ち、絵柄に締まりが出る。
もう一つの特徴は黄色い紙白だ。紙白がb*=8という黄色い紙は用紙全体の中では和紙ぐらいしか見当たらないが、和紙の中では中程度の黄色に位置づけられる。
また、「芭蕉」はざらざらした粗面とつるつるした滑面を持ち、両面にプリントすることが可能だが、原材料の影響で滑面に微光沢感があり、それが独特の雰囲気を醸してとても面白い。粗面にはわずかに簀の目(すのめ)があるが、粗面もまた魅力ある表現となる。
蛍光増白剤を使っていないので、経年変化の点でアートプリント紙の条件を備えている。

【使いこなし方】(注意点)

荒々しいテスクチインクは基本的に顔料インク、黒についてはマットブラックインクを使用する。
紙白はかなり黄色く、和紙の中でも中程度の黄色い用紙なので、暖色系の写真やモノクロ写真に適している。一方、青い絵柄は発色の点でやや苦手である。
伊勢和紙は薬剤使用によるインクジェット印刷面形成を行っていないため、裏表の両面にプリントすることができる。粗面と滑面とでは裏表の印刷特性の違いはとくにないが、機械漉きの場合は手漉き和紙と異なり、粗面のほうに和紙のケバが多いので注意が必要だ。
印刷時にはプリンターヘッドギャップやプラテンギャップ設定は用紙厚にかかわらず広めに設定したほうがよい。なお、この用紙はプリンターによって黒の濃度に大きな差が出る。濃度を必要とする際は現時点においてはエプソンSC-PX5VII、SC-PX3Vが有利である。

【評価】

1)紙白の印象、蛍光増白剤 → 3

紙白はb*が8程度と黄色い白。紙白の色は暖色系の絵柄やモノクロに向き、寒色系の絵柄は苦手である。蛍光増白剤は含まれていないので、光源による色の見え方の変化や経年変化の心配がなく、長期保存性に優れている。

2)風合い(面質、テクスチャー) → 4

テクスチャーは、滑面は微光沢感を伴う独特の面質、粗面は簀の目のあるラフな仕上がり。なお、滑面のシャドウには繊維の乱反射によるわずかな黒浮きがある。

3)階調性、黒の濃度、暗部コントロールのしやすさ → 4

階調特性はマット紙に近く、和紙の中では黒の濃度が最も出る(プリンターにより異なる)ので、和紙に慣れない人でも階調がつくりやすく、シャドウ表現もやりやすい。

4)解像感 → 4

和紙の中では「伊勢斐紙風祥」と並んで、最も輪郭感がシャープな用紙。

5)発色 → 3

和紙の欠点としてシアン、青、マゼンタ系の濃度がやや苦手で、全体的には発色は地味となる。

(総合評価) → 4

和紙の中では最も黒の濃度が高く、同時にシャープな輪郭表現が可能。紙白が黄色いので、暖色系、モノクロに向く。粗面、滑面それぞれが面白い。このように特徴的な和紙である一方、価格が安くリーズナブルだ。手漉き和紙にプリントする前の評価用としても、最終作品用としても十分に満足できる用紙である。和紙が初めてという方にもおすすめしたい。

【L*a*b*の測定結果】カラーモード (ICCプロファイル知覚的)

L*
【L*の測定結果】カラーモード (ICCプロファイル知覚的)

a*
【a*の測定結果】カラーモード (ICCプロファイル知覚的)

b*
【b*の測定結果】カラーモード (ICCプロファイル知覚的)

  • L*の階調特性は和紙としては十分な黒の締まりがあるが、SC-PX3Vの黒濃度には及ばない。
  • a*は問題ないレベル。
  • 紙白はかなり黄色が強く(b*=8)、暖色系の絵柄に適している
  •  プリンター:Epson PX-5V、マットブラックインク、Ultrasmooth Fine Art Paper設定(超高精細)
     ICC Profile : X-rite i1Profiler / i1iSis

SC-PX3Vの場合

L*
【L*の測定結果】モノクロモード(SC-PX3V)

a*
【a*の測定結果】モノクロモード(SC-PX3V)

b*
【b*の測定結果】モノクロモード(SC-PX3V)

  • L*の階調特性および黒の濃度はマット紙並みに出る。
  • a*は問題ないレベル。
  • 紙白はかなり黄色が強く(b*=8)、暖色系の絵柄に適している。
  •  プリンター:Epson SC-PX3V、マットブラックインク、フォトマット紙顔料設定(高精細)
     ICC Profile : i1Profiler/i1iSis

【L*a*b*の測定結果】モノクロモード(Epson PX-5V)

L*
【L*の測定結果】モノクロモード(Epson PX-5V)

a*
【a*の測定結果】モノクロモード(Epson PX-5V)

b*
【b*の測定結果】モノクロモード(Epson PX-5V)

  • L*が25前後で少し乱れがあるが、基本的に階調特性は素直。
  • a*、b*もとくにクセや偏りがないので、モノクロモードで安心して使える。
  •  プリンター:Epson PX-5V、マットブラックインク、 UltraSmooth Fine Art Paper設定(超高精細)

SC-PX3Vの場合

L*
【L*の測定結果】モノクロモード(SC-PX3V)

a*
【a*の測定結果】モノクロモード(SC-PX3V)

b*
【b*の測定結果】モノクロモード(Epson PX-5V)

  • 特性はシャドウからハイライトにかけて素直で使いやすい。
  • a*、b*もとくにクセや偏りがないので、モノクロモードで安心して使える。
  • プリンター:Epson SC-PX3V、マットブラックインク、フォトマット紙顔料設定(高精細)

【用紙テクスチャーとプリント色】

用紙テクスチャーとプリント色

【プリント後の彩度と明度変化】

*エプソンSC-PX5Vによるプリント結果の彩度グラフの見方については、「インクジェットプリント用紙の特性」ページにある「彩度の測定3(HSB表色系)」と「彩度グラフの見方3」、「彩度の判定基準2」をご参照ください。

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V)

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V) 赤
379→[3]

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V) 赤

赤(R)の彩度は控えめ。明るい赤は朱色に近く、暗い赤は濁った印象。

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V)

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V) 黄
526→[4]

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V) 黄

黄(Y)は明るい部分は鮮やか。

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V)

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V) 緑
413→[3]

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V) 緑

緑(G)については明るくなるにつれ色が淡く見える。

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V)

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V) シアン
334→[2]

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V) シアン

シアン(C)の明るい色は色が抜けたように浅い。

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V)

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V) 青
299→[2]

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V) 青

青(B)は苦手な色。全体に鮮やかさはなく、Bが50以下は青というより黒に近い色となる。

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V)

伊勢和紙 芭蕉(エプソンSC-PX3V) マゼンタ
277→[3]

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙 絹目調(エプソンSC-PX3V) マゼンタ

マゼンタ(M)は彩度が上がらず、明るい色は淡い。暗い色は黒に近くなる。