インクジェットプリント用紙の特性
キャンソン プラチナ・ファイバー・ラグ

【特徴】

プラチナ・ファイバー・ラグ(Platine Fibre Rag)は、コットン100%の素材を使った半光沢紙である。蛍光増白剤を使っていないので、経年変化に対して厳しい基準が求められるアートプリントに必要な条件を備えている。
この用紙の最大の特徴は、半光沢紙の中で黒の濃度感が優れた用紙のひとつであることだ。
半光沢紙は一般的に光沢紙に次いで階調特性がリニアで、画面で見たコントラスト感に近いイメージがプリントに反映されるのだが、シャドウ部分はわずかに浮いて見える傾向がある。ただ、この用紙はその浮きが小さいといえる。穏やかなテクスチャーの面質も黒の締まりに貢献している。
また、用紙の紙白が青でもなく黄色でもなく、ニュートラルな白(b*=0)ということも特徴である。あらゆる色相の色と紙白がほどよくバランスする。
光沢紙とは異なる柔らかい雰囲気の中に、しっかりとしたコントラストとディテール感(とくにシャドウ部分)により、深淵で奥深い表現を可能にしてくれる用紙である。

【使いこなし方】(注意点)

経年変化を生じにくい顔料インクがおすすめ。黒インクには基本的に光沢紙と同様、フォトブラックを使う。
用紙厚が約0.4mmあるコットン紙なので、用紙のコシはしっかりしているものの、気候影響などにより用紙の反りが発生しやすい。反りを残したままプリントすると用紙の周辺部分に印刷よごれを生じる可能性が高くなるし、プリンターのヘッド故障の原因につながりやすい。印刷前には必ず用紙の反りをチェックし、反りがあれば取り除くことが必要である。

【評価】

1)紙白の印象、蛍光増白剤 → 5

紙白はb*がほぼ0のニュートラルな白で、あらゆる色合いのプリントに向いている。また、蛍光増白剤は含まれていないので、光源による色の見え方の変化や経年変化の心配がなく、長期保存性に優れている。

2)風合い(面質、テクスチャー) → 5

わずかな光沢感を含む、やや細かめの穏やかなテクスチャーを持っている。他社用紙を含めた半光沢紙の中でも穏やかな部類に属する。

3)階調性、黒の濃度、暗部コントロールのしやすさ → 5

階調特性がリニアなうえにシャドウ部の浮きが小さいので、印刷結果がモニターの見え方に近く、シャドウの階調コントロールは比較的楽にできる。

4)解像感 → 5

解像感は面質の穏やかさと階調感のクリアさとあいまって、シャープで凛としたクリアな表現である。

5)発色 → 5

黒や色の濃度もしっかり出るので、発色は鮮やかだ。光沢紙に準じた色域を持っている。

(総合評価) → 5

アートプリントとして品位の高い質感を実現する用紙である。静謐で奥行きのある表現をしたいときに最も実力を発揮する用紙の1つだと思う。

【L*a*b*の測定結果】カラーモード(ICCプロファイル知覚的)EPSON SC-PX3Vの場合

L*
【L*の測定結果】カラーモード(ICCプロファイル知覚的)EPSON SC-PX3Vの場合

a*
【a*の測定結果】カラーモード(ICCプロファイル知覚的)EPSON SC-PX3Vの場合

b*
【b*の測定結果】カラーモード(ICCプロファイル知覚的)EPSON SC-PX3Vの場合

  • L*の階調特性はほぼリニアで黒の濃度もしっかり出る。
  • a*には偏りがない。
  • 紙白のb*はほぼゼロでニュートラルな白。全体的に素直な特性。
  •  プリンター:Epson SC-PX3V、フォトブラックインク、写真用紙絹目調設定(高精細)
     ICC Profile : X-rite i1Profiler / i1iSis

PX-5Vの場合

L*
【L*の測定結果】カラーモード(PX-5Vの場合)

a*
【a*の測定結果】カラーモード(PX-5Vの場合)

b*
【b*の測定結果】カラーモード(PX-5Vの場合)

  • 黒の濃度はSC-PX3Vに比べてやや浮くが、実用的には十分なレベル。
  • a*はニュートラルで全く問題ない。
  • b*もほぼニュートラルな特性。
  •  プリンター:Epson PX-5V、フォトブラックインク、写真用紙絹目調設定(超高精細)
     ICC Profile : X-rite i1Profiler / i1iSis

【L*a*b*の測定結果】モノクロモード EPSON SC-PX3Vの場合

L*
【L*の測定結果】モノクロモード(Epson SC-PX3Vの場合)

a*
【a*の測定結果】モノクロモード(Epson SC-PX3Vの場合)

b*
【b*の測定結果】モノクロモード(Epson SC-PX3Vの場合)

  • L*の階調特性はほぼリニアで黒の濃度もしっかり出る。
  • a*に偏りがないのでモノクロモードで安心して使える。
  • b*も偏りはない。
  •  プリンター:Epson SC-PX3V、フォトブラックインク、写真用紙絹目調設定(高精細)

PX-5Vの場合

L*
【L*の測定結果】モノクロモード(PX-5Vの場合)

a*
【a*の測定結果】モノクロモード(PX-5Vの場合)

b*
【b*の測定結果】モノクロモード(PX-5Vの場合)

  • L*の階調特性はカラーモード同様、黒の濃度はSC-PX3Vにはわずかに及ばないが、リニアで素直な特性。
  • a*に偏りがないのでモノクロモードで使いやすい。
  • b*もとくに問題ない。
  • プリンター:Epson PX-5V、フォトブラックインク、写真用紙絹目調設定(超高精細)

【用紙テクスチャー(粗面)とプリント色】

用紙テクスチャーとプリント色

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V)

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V) 赤
616→[5]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) 赤

赤(R)は光沢紙同等の特性。

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V)

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V) 黄
690→[5]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) 黄

黄(Y)も光沢紙を上回る特性。

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V)

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V) 緑
633→[5]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) 緑

緑(G)の彩度は光沢紙を上回る高いレベルまで発色する。

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V)

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V) シアン
477→[5]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) シアン

シアン(C)の彩度は光沢紙をやや下回るが、基本的には高いレベル。

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V)

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V) 青
700→[5]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) 青

青(B)の発色は光沢紙並みで、かなり彩度の高いところまで出る。

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V)

プラチナファイバーラグ(エプソンSC-PX3V) マゼンタ
491→[5]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) マゼンタ

マゼンタ(M)は光沢紙並みの標準的な発色レベル。

6色の平均点=5.0

キャンソン[プラチナ・ファイバー・ラグ] 千代田路子(Michiko Chiyoda)さんの使用感

千代田路子(Michiko Chiyoda)さんの使用感

アルルのフォトレビューへ行くために

2014年7月、南仏アルルで開催されるフォトフォリオレビューへの参加を決めました。持っていく作品は2010年の作品展で展示したもので、そのときはラボに依頼して銀塩プリントをしました。けれども、アルルへはインクジェットプリントに挑戦してみようと思いました。どの用紙を使おうかとても悩みました。銀塩プリントでは絹目調のものにしたので、それと同じ感じならバライタ系がいいと思いましたし、逆にマット系にしてもいいのかもしれないと考えました。


千代田路子(Michiko Chiyoda)さんの使用感

暗めで暗部の多い写真に適していた

「何を表現したいのか」という明確なコンセプトを持っていないと紙を選べないということもこのときに学びました。なので、さまざまな紙にテストプリントしたり、PhotoShopで追い込んだりしながら、同時にステートメントをまとめ上げていきました。そして、ステートメントが完成したときにやはり、バライタ系の紙がいいという結論に達しました。私の写真は暗めで暗部が多いので、マット系の用紙だとつぶれてしまうこともあります。


千代田路子(Michiko Chiyoda)さんの使用感

用紙に見合った追い込みが楽しい

ハーネミューレとキャンソンで最後まで悩みましたが、紙が違うと世界観が変わるのだとわかりました。いまでは、どの紙にするか決めないと撮っていけないとも考えています。紙の選択のあとで、詳細なプロファイルをつくってその紙に見合った追い込みをPhotoShopでしたり、そのうえでステートメントを表現するのは難しかったです。でも、これらの作業はとても楽しいものでもありました。このときに学んだプリントのテクニックは写真をやっていくうえで大きなステップにもなりました。