インクジェットプリント用紙の特性
アワガミファクトリー プレミオ楮(こうぞ)白

[English]

【特徴】

プレミオ楮はその名前が表すとおり、アワガミファクトリーのインクジェット用紙(A.I.J.P.)シリーズの中でハイエンドのシリーズの位置付けにあり、和紙の代表的な素材である楮(こうぞ)を使った用紙である。
この用紙の特徴は、楮を素材とした機械漉きベースの印刷面の裏側に、さらに別の素材の用紙を組み合わせることによって厚みを加え、手に持ったときの重厚感と用紙としての取り扱いやすさを実現している点にある。
用紙の厚さは0.35mm。同じアワガミファクトリーの楮ベースの製品である「楮(厚口)白」の0.23mm、「楮(薄口)白」の0.16mm、「楮二層紙」の0.18mmなどに比べ、厚みの点でしっかりとした手触り感がある。そのため印刷時の取り扱いやすさに加え、裏うつりが少ないので額装の際にも裏側の処理が楽である。
この用紙を選ぶ重要な理由は中性を保っていることと蛍光増白剤を含んでいない点にある。中性であるということは経年変化や保存性の点で有利であり、蛍光増白剤が含まれていないことも同様に経年変化の点で好ましい。
また、日本の伝統的な印刷メディアとしての和紙を使うということについて、使用する人に1つの位置付けができていれば作品づくりにおける説得力を持たせることができる。「プレミオ楮」はその優位性を語るうえで代表的な用紙といえる。

アワガミファクトリーの用紙全般にいえることだが、用紙の表面にインクジェット適性を求めた処理を施している。そのため、階調特性的にしっかりとした濃度が出やすく、濃度の高い色彩やコントラスト感に対する期待を裏切らない使いこなしやすさを持つ。

【使いこなし方】(注意点)

インクは基本的に顔料インク、黒についてはマットブラックインクを使用するといい。
和紙全般にいえるが、和紙の繊維の影響により、表面のざらつき感とわずかなにじみが生じる。大切なことはこの点をデメリットと捉えず「活かす」ということにある。
黒の濃度はマット紙と同じくらいに出るポテンシャルを持つので、同じようなコントラスト感を保ちながら、マット紙とは違ったテイストを求めることができる。
ただし、マット紙に比べ、青、マゼンタあたりの彩度はあまり上がらないので、少なくともこの色相の彩度は上げようとしないことが使いこなしのポイントと考える。彩度を求めるならば、そもそも和紙を選ぶべきどうかを再考したい。
エプソンSC-PX3V、PV-5Vに関しては、モノクロモードにおいても[緑~マゼンタ]の色の偏りは見られず、特性的に素直である。
この用紙の使いこなしの選択肢の1つとして考えるといいだろう。
ただ、アワガミファクトリーの用紙全般にいえるが、用紙の表面処理の影響から、プリント時のオートシートフィーダ給紙の際に給紙ローラーが滑るため、うまく用紙が給紙されないことがある。対策としては、給紙ローラーをこまめに清掃するか、フロント給紙にするといい。

【評価】

1)紙白の印象、蛍光増白剤 → 4

b*の値としては5程度と、やや黄色が強めのアイボリーホワイト。暖色系の表現が似合う用紙だ。もし和紙を使って青い表現を求める場合は、紙白がこの用紙よりもやや黄味の弱い楮二層紙、楮(厚口)白 (b*=3-4)の方がいいかもしれない。蛍光増白剤は使用されていない。

2)風合い(面質、テクスチャー) → 4

楮の繊維により、一般のマット紙よりも色ベタ面で繊維感がある。これが和紙らしさでもあるので、淡めの色使いとともにうまく繊維感を活かしたい。

3)階調性、黒の濃度、暗部コントロールのしやすさ → 4

和紙の中ではマット紙並みの黒の濃度の出る用紙ではあるが、和紙独特の繊維による乱反射により、マット紙に比べてやや浮くように感じる。黒の過度な濃度をこの用紙に求めるのではなく、ややソフトなコントラスト感で使うと自然な印象に仕上がる。

4)解像感 → 3

わずかなにじみが見られるため、シャープなプリントというより柔らかな表現となる。この点をうまく活かしたい。

5)発色 → 3

[黄色~緑]については鮮やかな発色が得られる一方、[青~マゼンタ]については彩度は上がらない。全体バランスを考えれば発色は控えめに使いこなすのがバランスよく仕上げるポイントである。

(総合評価) → 4

プレミオ楮は和紙としてポピュラーな楮を使い、写真用紙として使いやすい用紙厚と風合いに仕上げられたハイエンドな和紙である。オーソドックスで幅広い用途での写真表現と実用性を兼ね備えている。

【L*a*b*の測定結果】カラーモード(ICCプロファイル知覚的)EPSON SC-PX3Vの場合

L*
【L*の測定結果】カラーモード(ICCプロファイル知覚的)EPSON SC-PX3Vの場合

a*
【a*の測定結果】カラーモード(ICCプロファイル知覚的)EPSON SC-PX3Vの場合

b*
【b*の測定結果】カラーモード(ICCプロファイル知覚的)EPSON SC-PX3Vの場合

  • L*の階調特性は和紙としては黒の濃度が出るほう。
  • a*はニュートラルで全く問題ない。
  • 紙白は黄色傾向(b*=5)で素直な特性。

 プリンター:Epson SC-PX3V、マットブラックインク、フォトマット紙顔料設定(高精細)
 ICC Profile : X-rite i1Profiler/i1iSis

PX-5Vの場合

L*
【L*の測定結果】カラーモード(PX-5Vの場合)

a*
【a*の測定結果】カラーモード(PX-5Vの場合)

b*
【b*の測定結果】カラーモード(PX-5Vの場合)

  • 黒の濃度はSC-PX3Vとほとんど同じレベルで、黒の濃度は出るほう。
  • a*はニュートラルで全く問題ない。
  • b*は紙白に向かって素直な特性。

 プリンター:Epson PX-5V、マットブラックインク、Ultrasmooth Fine Art Paper設定(超高精細)
 ICC Profile : X-rite i1Profiler/i1iSis

【L*a*b*の測定結果】モノクロモード EPSON SC-PX3Vの場合

L*
【L*の測定結果】モノクロモード(Epson SC-PX3Vの場合)

a*
【a*の測定結果】モノクロモード(Epson SC-PX3Vの場合)

b*
【b*の測定結果】モノクロモード(Epson SC-PX3Vの場合)

  • 特性はシャドウからハイライトにかけて素直で使いやすい。
  • a*に偏りがないのでモノクロモードで安心して使える。
  • b*も素直な特性で問題ない。
  •  プリンター:Epson SC-PX3V、マットブラックインク、フォトマット紙顔料設定(高精細)

PX-5Vの場合

L*
【L*の測定結果】モノクロモード(PX-5Vの場合)

a*
【a*の測定結果】モノクロモード(PX-5Vの場合)

b*
【b*の測定結果】モノクロモード(PX-5Vの場合)

  • L*の階調特性は標準的で、黒の濃度はSC-PX3Vにはわずかに及ばないが、ほぼ同等といっていい。
  • a*に偏りがないのでモノクロモードで使いやすい。
  • b*もとくに問題ない。
  •  プリンター:Epson PX-5V、マットブラックインク、Ultrasmooth Fine Art Paper設定(超高精細)

【用紙テクスチャーとプリント色】

用紙テクスチャーとプリント色

【プリント後の彩度と明度変化】

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V)

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V) 赤
417→[3]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) 赤

赤(R)の彩度は全体的には高くないが、明るい色で彩度が上がる。

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V)

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V) 黄
538→[4]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) 黄

黄(Y)の彩度は鮮やかな発色。

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V)

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V) 緑
433→[4]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) 緑

緑(G)は和紙としてはかなり優秀なレベル。

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V)

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V) シアン
374→[3]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) シアン

シアン(C)は彩度はよく出ているほうだが、明るい色は彩度が抜けて淡い色合いとなる。

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V)

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V) 青
369→[3]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) 青

青(B)は一般的に和紙が苦手とする色であり、彩度は上がらない。

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V)

アワガミ ブレミオ楮(エプソンSC-PX3V) マゼンタ
297→[3]

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V)

[参考値]光沢紙(エプソンSC-PX3V) マゼンタ

マゼンタ(M)も和紙が苦手とする色であり、彩度は上がらない。

6色の平均点=3.3

アワガミファクトリー[プレミオ楮白] 蓮見浩明(Hiroaki Hasumi)さんの使用感

蓮見浩明(Hiroaki Hasumi)さんの使用感

なぜ、この紙を選んだのか

第一の理由は、和紙は1300年の歴史を持つ日本の伝統的な紙であるから。日本人である私が、日本人が古くから愛してやまない桜を表現するのにふさわしい紙は和紙であると考えました。


蓮見浩明(Hiroaki Hasumi)さんの使用感

花の白を表現する紙の色がいい

桜の白い花を表現するとき、プリントでは紙そのもの色、つまり紙白になります。日本画で白を表現するときは日本人は昔から胡粉という貝殻を焼いて砕いた粉を使ってきました。それと同じような表現をしたいと考えたときに、プレミオ楮の紙白は胡粉の白にとても近いと感じました。ちょっとざらついた艶のある白で若干、黄色味がかり、歴史を感じる紙色。日本画風の桜を表現するのに適した紙を求めた結果、プレミオ楮白を選びました。


蓮見浩明(Hiroaki Hasumi)さんの使用感

厚みと解像感、面質も気に入っている

次にいいと感じたのはこの厚みです。持ったときに重厚感があります。和紙には薄いものが多いですが、薄いと透けてしまい印象が変わってしまいます。アルルのポートフォリオレビューで作品を見せるときにも透けないので自信を持って見せられました。また、和紙は解像感が悪いという印象もありますが、この紙はそういうこともなく、面質も荒すぎず、立体感もあります。1枚2,000円と少し高額なのだけが気になる点ですね。