インクジェットプリント用紙の特性
伊勢和紙 大直紙
【特徴】
伊勢和紙の「大直紙」(おおなおし)は、バショウ2、楮(こうぞ)1の比率の原料を使用し、手漉きで仕上げられた用紙である。
「手すき伊勢和紙」シリーズの中では、晒し純楮紙(さらしじゅんこうぞし)に次いで紙白が白く、紙白のb*は約5.0程度である。
「大直紙」はその材料である楮のソフトな仕上がりと、バショウのくっきりとした表現との組み合わせにより、柔らかなトーンの仕上がりと、輪郭がくっきりした穏やかな色の表現となる。
ただ、黒の濃度はあまり得意としないので、明るめの画像表現に適している。
「大直紙」のラインアップにはさまざまなサイズバリエーションがある。
<パッケージ品>
A4、A3(薄手)、A3ノビ(厚手)※厚手の用紙厚は約0.23mm
<全紙サイズ>
奉書判(およそ48cm×39cm、厚手)、菊判(およそ97cm×63cm、薄手/厚手)、四八判(およそ111cm×242cm、厚手)
菊判からはA2サイズで二枚、A3ノビサイズ二枚+A4サイズ三~四枚という切り出し方となるので、注文時に裁断が必要な場合は寸法を指定して注文することになる。
ちなみに菊判をたて2×よこ2枚=4枚で裁断した場合の寸法は、A3ノビの短辺側が少し短いサイズ(483×315mm)となるので、この裁断寸法もおすすめである。
【使いこなし方】(注意点)
インクは基本的に顔料インク、黒についてはマットブラックインクを使用する。
紙白が伊勢和紙の中では比較的純白に近いほうなので、暖色系の色使いの写真はもとより、寒色系の色使いにも違和感なく使用できる。
伊勢和紙はとくに薬剤使用によるインクジェット印刷用の適性化を行なっていないので、裏表の両面にプリントすることができる。
手漉き和紙にはざらざらとした「粗面」となめらかな「滑面」があり、裏表の印刷特性の違いはとくにないが、手漉き和紙の場合は滑面のほうが和紙のケバが多いので注意が必要だ。粗面側にプリントしたほうが、プリンターヘッドのケバ付着による汚れの恐れはやや小さくなるといえる。
印刷時にはプリンターヘッドギャップやプラテンギャップは通常用紙よりも広めに設定したほうがいいだろう。
【評価】
1)紙白の印象、蛍光増白剤 → 4
品位の高いオフホワイト(b*=5)。寒色系の色使いにも違和感なく使える。
和紙なので蛍光増白剤は一切含んでいない
2)風合い(面質、テクスチャー) → 5
バショウと楮を手漉きで仕上げた「大直紙」は、粗面、滑面とも高級感にあふれた格調高い和紙の風合いをもつ。 用紙のコシはやわらかい。
3)階調性、黒の濃度、暗部コントロールのしやすさ → 3
黒の濃度は和紙としては標準的な値(L*で25程度)で、マット紙に比べて黒の濃度が出ない分、やわらかでソフトな表現となる。
ただ、狭いコントラスト範囲で階調を作り込む必要があるので、使いにくいと感じる場合があるかもしれない。 ローキーな画像についてはPhotoshopの校正設定による階調や紙白シミュレーション機能を活用して絵づくりを行なうことをおすすめしたい。
4)解像感 → 4
やや狭いコントラスト幅の影響でソフトな印象だが、細部はシャープであり、にじみなどによる解像感不足は感じない。
5)発色 → 3
全体的に彩度が上がるにつれて色が飽和するため、高い彩度の色合いが出るわけではなく、基本的には控えめな発色である。和紙の中では色の発色は標準的なレベルといえる。黄色の発色はいい。
(総合評価) → 4
いかにも和紙らしいやわらかな表現、手すき和紙の風格がこの用紙の特色である。ローキーな画像よりもハイキー寄りの画像が適している。
ただ、 場合によっては適切な階調再構築の画像補正を要するかもしれない。
【L*a*b*の測定結果】カラーモード (ICCプロファイル知覚的)
L*
a*
b*
- L*の階調特性にやや乱れ。黒の濃度はあまり出ない。
- a*はとくに偏りがない。
- b*は紙白に向かって素直な特性。
プリンター:Epson PX-5V、マットブラックインク、UltraSmooth Fine Art Paper設定(超高精細)
ICC Profile : X-rite i1Profiler/i1iSis
【L*a*b*の測定結果】モノクロモード(Epson PX-5V)
L*
a*
b*
- L*の階調特性のつながりはいい。黒の濃度は出ない。
- a*に偏りがないのでモノクロモードで使いやすい。
プリンター:Epson PX-5V、マットブラックインク、UltraSmooth Fine Art Paper設定(超高精細)
【用紙テクスチャー(粗面)とプリント色】
【プリント後の彩度と明度変化】
[3]
[4]
赤(R)も黄(Y)も彩度はあまり高くない。赤の彩度は60%(印刷後)を上限として飽和する。
[3]
[3]
緑(G)、シアン(C)とも、和紙としては標準的レベル。プリント後の彩度は60%あたりで飽和する。
[3]
[2]
青(B)やマゼンタ(M)は一般的に和紙が苦手とする色であり、彩度は上がらない(とくにマゼンタ)。
6色の平均点=3.0
伊勢和紙[大直紙] 佐々木一弘(Kazyhiro Sasaki)さんの使用感
さまざまな和紙を試したい
私は和紙にインクジェットプリンターで印刷することに挑戦し続けてきました。それまでに使った用紙は繊細でやわらかな描写をするという和紙独特の特性を持っていましたが、風合いなどに和紙らしさが少し足りないと感じていました。障子紙や半紙などの風合いを持った和紙を求めていて、そんなイメージの用紙を探していたのです。そんな候補の中に伊勢和紙がありましたが、量販店では取り扱っていないこともあり、試すことができないでいました。
伊勢和紙との出会い
伊勢和紙にはさまざまな種類があり、それぞれにどんな特性があるのかは伊勢和紙さんのホームページには掲載されていてとても興味をもっていたのですが、試すことができないために使うことを躊躇していました。そんなとき、SAMURAI FOTOで伊勢和紙さんを訪問する機会があり、中北社長からさまざまな種類の説明を受けました。機械漉きや手漉きによる違いなども聞くなかで、私が求めていたイメージは手漉きの大直紙であるとわかりました。
やわらかいのに発色がよく緻密
大直紙は手漉き伊勢和紙の中では紙色が純白よりもわずかに黄色みがかっていますが、襖や障子に使用されている和紙の色合いに近いと感じました。手に取ると和紙らしいしっとりとした感触でかなりやわらかめです。しかし、実際にプリントしてみると、意外にも発色がよく、緻密な表現が得意でした。私の作品はハイキーなものが多いのでこの特性が好ましかったのです。また、しっかりとした描写にもかかわらず、和紙らしい風合いをとどめた優しくやわらな仕上がりになりました。
手漉き和紙を初めて使うなら大直紙
ただし、やわらかい用紙であるため、折れやすいのが難点です。表面もあまり強くないのでプリンターの紙送りにより傷つくことがあり、注意が必要になります。インクが剥がれることもありますので、プリント後にはフィクサチーフやマットバーニッシュなどで表面コートすることをおすすめします。
それでも和紙らしい風合いを求める人には最適の用紙だと思います。価格も比較的安価なので、手漉き伊勢和紙を試したい方はこの大直紙から始められるといいでしょう。