Artist Statementの書き方 実例(3)第3稿

久保田さん第3稿 / The case of Masaya Kubota III

震災直後、私は個人にできることの限界を感じ無力感でいっぱいだった。写真にできることは何か考える日々の中で、まず現地に行こうと決めた。
被災地を撮影し、手応えをつかめないまま日暮れを迎えようとしていた。そろそろ帰ろうかと思いながら寄った船着き場で、一輪の花に出会った。それは崖の上に咲いている一輪の花だった船着き場のコンクリートは津波でひび割れ、この周辺も津波の被害にあったことは容易に想像できた。そんな環境の中で咲く一輪の花は、疲れ果てた私の心に安らぎを与えてくれた。

その後も被災地に赴き写真を撮り歩いた。壊された街並や人々を記録していくうちに私はいつのまにか自分自身の生き方をみつめなおしていた。今でもときおりあの花を思い出すことがある。

だれかのために咲く訳でもなく、だれかに見られるために咲いていた訳でもない。どんな苦しい環境であっても、美しく咲いていた。私もあの花のようにきれいな花をいつか心のどこかに咲かせたい。この文章を書きながら私は最後にあの花の名前を調べた
『浜菊』 花言葉は『逆境に立ち向かう』。
私は被災地を訪れることで、良い写真を撮ることよりも、(強く生きる)心の豊かさを学んでいるのかもしれない。

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