Artist Statementの書き方 実例(4)完成稿

久保田さん完成稿 / The case of Masaya Kubota IV

「崖に咲く一輪の花」

震災直後、私は個人にできることの限界を感じ、無力感でいっぱいだった。写真を生業にしている私は、写真にできることは何か考える日々が続き、答えが出せないままいたが、まずは現地に行こうと決めた。

そして、被災地を訪ねた何度目かのときのことだった。
手応えをつかめないまま日暮れを迎え、そろそろ帰ろうかと思いながら寄った船着き場で、私は一輪の花に出会った。それは崖の上に咲いている花だった。
津波でひび割れたコンクリートのわずかな隙間に根を張り、咲く花。その姿は疲れ果てた私の心に安らぎを与えてくれた。

その後も被災地に赴き、私は写真を撮り歩いた。
壊された街並みや人々を記録していくうちに、私はいつのまにか自分自身の生き方を見つめ直しているのに気づかされた。
そして、ときおり、あの花を思い出した。

誰かのために咲くわけでもなく、誰かに見られようと咲くわけでもない。どんな苦しい環境でも美しく咲いていた花は「浜菊」という名で、「逆境に立ち向かう」が花言葉であることをのちに知った。

被災地を訪れるうちに、良い写真を撮ることよりも、心が豊かになる写真を撮りたいと私は思うようになった。崖に咲く浜菊のような花を誰かの心にも咲かせられるように……。