“What's Art?” by Akitsune Tagami

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“What's Art?” by Akitsune Tagami

「アートとは精神的・哲学的発明」と結論づけたという田上さん。さまざまな経緯を経て、自分の生業である「知的財産の管理」と照らし合わせて、この結論に至ったという田上さんはそれまでの紆余曲折を詳細に語るとともに、それらを整理して整然とした答えを提示してくれた。

“What's Art?” by Akitsune Tagami

きっかけは2012年4月に参加したGANREF写真展プロジェクト。吉田繁先生から「コンセプトに基づく作品づくり」が求められた。当初はコンセプトが何かもわかなかったが、その取り組みによって作品のレベルアップを実感し、その大切さを知る。だが、アートとしての写真の真髄がわからないため、「わかりたい」という意識が芽生えた。

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アートについて何が求められているのか知るために、最初に手にしたのは村上隆氏の資料。日本を代表する現代アートの旗手だが、その作品を理解することはできず、それが何故アートであるのかも理解に苦しんだ。

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作品は理解できないものの、その著書を読むと、欧米のアートルールをしっかりと研究していた。それに従った作品によって世界に認められたことで彼は大きな功績を残したと感じた。「ちゃんとルールに則ってやらないと、とくに世界では何も伝わらない」ということを教えられた。

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村上氏は「アートは心の癒し」とも言っているのでそれには共感できた。そして、彼はアートに必要なものとして「歴史の文脈」という言葉を盛んに掲げている。それは、写実主義の絵画から印象派へと移行するアートの歴史上の分岐点。その分岐点を明確化することではないかと類推した。

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ほかに村上氏の元パートナーでギャラリストの小山登美夫氏や、アートディレクターで芸大教授の辛美沙氏の著書を読んだ。辛氏の本から、20世紀のある時点から批評家がアートの価値を決め、アートワークを引っ張るようになった大きなムーブメントがあったことを知る。

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アート作品では会田誠やホルマン漬けの牛で有名なダミアン・ハーストのものなどを見るが、やはり理解できない。そんなときに日本画家である千住博氏の「美は時を超える」という著書に出会う。世界で認められるアーティストでありながら、ストレートに美を求める姿勢にとても共感できた。

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千住氏の『ウォーターフォール』を見て、やっとこれなら理解できると思った。実際、彼もホルマリン漬けの牛のどこがアートなのか理解できない。もっと美の本質を求める動きがあってもいいのではないかと言っている。私も自分の価値観を大切にして表現していこうと思った。

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次に出会ったのが杉本博司氏の写真作品。建築物をピンぼけで写し取ったもの。これには衝撃を受けた。この作品のステートメントによると、20世紀初頭のモダニズムで人は初めて形を作る自由を得た。その現代の始まりを建築から辿るために、無限の倍で建築を撮った。優秀な建築は大ボケでも溶け残った。

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杉本氏の新たな視点の提案には本当に驚かされた。だが、それを知ったからといって、自分にとって新たに奮起されるものがなかった。そこで、生業である知的財産とアートは同じ構図ではないかという仮説を立てた。知的財産とは、思想を財産として扱う国際的な枠組みである。

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知的財産の保護するためのステップ[発明家が発明を捜索→専門家が出願書類作成→特許庁の審査官が審査→特許査定となり公示]は、そのままアートの流れ[アーティストが作品づくり→ギャラリスト・キュレーターに見せる→アートトレンドセッター・批評家がその価値を決める→世界のアートフェアなどで売られる]にとても似ている。

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思想を価値化するグローバル・フォーマットは4つの構成で成り立っている。従来技術があり、それにはこういう課題があって、それを解決する手段が発明。それによってどんな効果があるか、というものだ。ここで私は村上隆氏のいう「歴史の文脈」とは従来技術と課題のことを指しているのだと気づいた。

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では、「効果」とは何かと考えたとき、私にとってアートをやることで得られる効果はリッチになることではなく、自分の子どもが大人になったときによりよい環境でいろんな体験ができる舞台をつくっておきたいということだった。そして、この効果に対する課題設定を考えてみた。

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私にとっての課題は「果してこの世界は持続可能だろうか? 技術面は技術発明に任せるとして、精神的に克服すべき課題があるのではないか」と思うに至った。そこで調べてみると「飢餓の理由は食糧供給の技術的問題ではなく、政治的問題であることが判明している」という意見があり、精神的に克服すべき課題をわれわれは確かに持っていると理解できた。

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最後に、技術的発明と私にとってのアートを整理してみた。発明とは「自然法則を利用して技術的課題を克服し、産業の発展に寄与する技術的思想の創作」であり、アートとは「人の表現力を利用して精神的課題を克服し、次世代の発展に寄与する精神的思想の創作」であると結論づけられた。それによって、「アートとは精神的・哲学的発明である」といえる。