Michele Vitucciさん 講演会



左は日本語の通訳をしてくださったKeikoさん

Michele Vitucci さんProfile
1962年生まれ。イタリア国籍。ドイツ語とイタリア語が堪能。英語のほか、スペイン語とフランス語も話す。
1988年ミュンヘンにあるLudwig Maximilian大学のドイツ経済学とコミュニケーション学の大学院課程を修了。その後、雑誌や新聞に写真を提供するフォト・エージェンシーに携わり、1997年にはGetty Images(世界最大級のデジタルコンテンツサイト)のヨーロッパにおけるマネージング・ディレクターに……。98年からはフリーランスとなり、おもにシンガポール、アメリカ、イギリスの企業をコンサルティング。2004年商業写真プロダクションとコンサルティング会社を設立。
2010年、日本の現代美術を専門とするMickekoギャラリーをミュンヘンで創設。
30年以上のあいだ写真に携わり、写真が3度の飯より好きなミケーレさんは世界各地で行なわれるアートフェアやフェトフェスティパルにも参加。日本でも過去2回のフォトレビューを行なっている。
www.micheko.com 外部サイト

※以下、ミケーレさんのお話の内容をまとめたものです。

欧米の写真の現状

カメラの高性能化やカメラ付きスマホアプリの普及により、誰もがいい写真が撮れるようになった。
ギャラリーで展示をしていると、写真以外のアートの場合には、純粋に作品が興味があって「買いたい」と思う人が見にくるが、写真の場合には、買う目的ではなく、その作品から何かを学びたい、テクニックを盗みたいという写真好きの人が見学にくる。いわば、日本でいうところの「一億総写真家」のような状況で、アートとしての写真市場は危機に瀕している。
しかし、それはある意味、世界中で写真に興味をもたれているともいえる。
いまヨーロッパでは経済が不安定なので、写真は売れないともいえるが、不安定なときだからこそ「いまを乗り越えるための答えをアートから見出そう」と考える人もいると前向きに考えたい。
また、アート市場で活躍できるのはほんのひとにぎりのエリートに限られるが、エリートになるためのフォトレビューという場がある。ヒューストン、パリ、アルル、サンタフェ、カンボジアなど、そういうところに積極的に参加するべきである。

日本でのフォトレビューで感じたこと

多くの人が聞きたがったのは「ヨーロッパで私の作品は通用するか」ということだった。しかし、日本でダメならヨーロッパでと考えているのだとしたら、それは短絡的すぎる発想である。
ギャラリストにフォトレビューする場合、最低限決めておかねばならないのが、エディションとサイズと価格である。しかし、それを決めてこない人がほとんどで驚いた。
「エディションは基本のキである」。写真はいくらでもつくれるのが長所だが、油絵は1枚しかつくれない。それと勝負しないといけないのだから、多くてもいけない。
アンリ・カルティエ=ブレッソンなど70年代まではオープン・エディションといって枚数を決めないのがスタンダードだったが、現在はエディションを切るのが基本である。
サイズは大きいものと小さいもの2種類、例えば大きいものは3~5点(2~3mの大きさなら2点)、小さいものは3点、あとは作家の手元に2枚残す。これがいまの世界的なスタンダードだ。
売れないから小さい作品をつくる。また、価格を安くするなどというふうに安易には動かないことである。きちんと決めて実行することで、のちのちあの作家はいつもきちんとしていると評価されることになる(同じ作品の値段が下がったら、以前に買った人の信頼を裏切ることにもなる)。
経験の少ない作家が価格を高くできないのも理解できるが、売れても赤字なのでは製作のモチベーションが上がらないので、売れたら自分が潤うように(用紙などのコストを低くするなど)バランスを考えて決めるべきである。

風景写真とポートレートは売れない

一般的にどういう写真が売れるかというと、タテよりヨコの作品、暗い色より明るい色などがあるが、これらは一般的に茶色を好まない人が多いという統計結果と同じようなものだろう。デジタルよりもアナログの作品が好きだという人も多い。つまり、より人の手が加わっているものが好まれている。
また、欧米では家族写真を飾る風習があるため、家族以外のポートレートは置きたくないとも考えられている。また、風景写真が売れないのは、一般の人でも「こんな写真なら自分でも撮れる」と思われるからで、真似のできないものに仕上がっていなければ、「買いたい」「自分のものにしたい」というモチベーションを生み出すことはできない。

作品でいちばん大切なのは「琴線に触れること」

誰かが「自分だけのものにしたい」というのはたいへん強い衝動である。
それを引き出すためにいちばん大切なことは「誰かの琴線に触れる」ことだ。
多くのコレクターは無駄なお金は使わない。まあ、とりあえず買っておこうはない。本当に持っていたい作品にだけお金を出す。だから、100人中100人に好かれる作品でなくていい。ある一部の人の気持ちを動かせればいいのである。

作品づくりに欠かせない4つのこと

1. ストーリィ性

このテーマでどうやって表現するかというコンセプトが必要だが、ストーリィも大切な要素である。小説に例えた場合、3ページで終わる本は誰も買わないが、話が深く、広がっていて、もっと知りたいと思うような本は立ち読みでは終わらずに購入する。写真も同じで、1つのストーリィでなく、3つ、4つのストーリィが重なればよりおもしろくなる。
例えば、家族をテーマにしたい場合には、そこに母親の歴史があり、その背景には戦争、さらには日本の歴史が含まれている。そうすると、読者は引き込まれていく。

2. 継続性

1の物語の続きして、さらに娘さんが出てくる。そして、子どもが生まれる。というようにずっと追い求めていく。それによって、物語(作品群)がどんどん深くなる。

3. 創造性

みんなと同じではおもしろさがない。もし、同じテーマで撮っていた先人がいたとしても、やっていない視点、方向でとらえることである。

4. 国民性

作品の根底にはアイデンティがある必要がある。ヨーロッパにいる日本人アーティストの悪い例として、作品を見ても話しても日本人でなく、インターナショナルでもないと感じることが多々ある。作家自身に基盤がなく、この人の根はどこにあるのか見失われたようなものはよくない。日本人としての目と考えを持つことが大事である。

世界で作品を売るための第一歩

1. 英語で話すこと

日本から出て作品を見せるにはまず言葉で大事である。うまいヘタは関係なく、言葉で伝えることが必須。少なくとも英語で、自分のことだけでなく、自国の文化を語れるようにしておきたい。

2. インターネットのサイトを持つ

アーティストや写真家は世界中にごまんといる。そんななかで自分をプッシュするためには、最低限でも英語で自分のサイトを持ち、作品を公開しておくべきである。きちんとしたサイトを用意しておこう。

3. 海外フォトレビューを体験する

日本でフォレビューしてみて感じたのは、みんなプレゼンにすごいお金をかけている。用紙にもお金をかけているということ。そういうお金をかける以前に、アルルに行って世界のいろいろな作品を見るべきである。
日本の写真家は質も高く、独特の視点を持っているが、残念ながら日本にはフォトフェスティバルはない。それならば、一度は見に行くべきだ。一度行ったら、二度三度行く。そうすれば、人間関係を広げられ、コネクションをつくることにも繋がる。
ちまちまと集まって写真展をやるよりも、まず、世界の写真を見るべきである。

ギャラリーから伝えたいこと

ギャラリーで展示したい、ギャラリーと仕事がしたいと考えても、自分の作品をギャラリーに持ち込んで見てもらうことはやらないでほしい。百発百中断られる。
なぜなら、ギャラリーにはカラーがあるし、ギャラリストは自分たちで作品を見つけたいと思っているからである。
(なので、フォトレビューを受けるときでもそのギャラリーの求める作品をよく調べたうえで、自分がレビューを受けるべきギャラリーを探すべきである)。
例えば、日本の現代アートを求めているミケコギャラリーにポーランド人作家が来てもお門違いである。

世界中のギャラリーが集まり、いま、コレクターが買いたい(いま売れている)作品が集まっているのがアートフェアというものがある。バーゼルやマイアミ、香港など。こういうところに行くと、ギャラリーがどんな作品を求めているのか、自分の足りない部分はどこなのかわかるので、アートフェアも見ておくといい。

ギャラリストはアートフェアやフォトフェスティバル(フォトレビュー)に出かけている場合がほとんどなので、訪ねてこられてもいない場合が多い。では、なぜ店を構えているかといえば、じつは作家のためである。ミュンヘンのギャラリーで個展を開催したということを作家が経歴とできるようにするためである。