MOPAのExective curator デボラ・クロチコさんの講演会を開催

講演内容

“ MOPA MAKES LEARNING VISIBLE “、どんなExhibitionを開催しているか、Awardについて、さまざまな世代への教育活動、難民、孤児、HIV、人権問題への取り組み、最新テクノロジーも積極的にチャレンジ、デボラさんが目指す美術館とは、美術館でExhibitionをしたいと思っている方へ、参加者からの質問

デボラ・クロチコさんの講演会を開催

デボラ・クロチコさんの講演会を開催

デボラさんをSAMURAI FOTOにお迎えした理由

●MOPA(Museum of Photographic Arts)は、メキシコとの国境に近い南カリフォルニアのサンディエゴにあるアート写真美術館で、MFAH(The Museum of Fine Arts,Houston )などともにアメリカを代表する写真美術館です。デボラ・クロチコさんはアメリカの写真界で30年以上活躍されるとともに10年間MOPAの館長を務められています。現在、海外や国内で多くのポートフォリオレビューが開催されていますが、そこでお会いできるのはキューレター・クラスの方でデボラさんのようなエグゼクティブ・キューレターにはなかなかお会いすることができないからです。

●デボラさんとの出会いは吉田繁先生が4年前に東京でポートフォリオレビューを受け、さらに2年前、ロシア南部のクラスナダールで開催している国際写真フェスティバルPhotoVisaに一緒に招待されて再会したことによります。その際にもSAMURAI FOTOのために「アートとは何か」などのインタビュー動画を録らせていただきました。また、吉田先生のレビューの際にとても的確、明快にアドバイスをいただいたこと。一週間をともに過ごさせていただいたPhotoVIsaでは毎日、朝から夜までびっしりと写真展のオープニングパーティやレクチャーがあって帰りが22時を過ぎることはざらにありましたが、それでもホテルにアポなしの学生などが作品を見てもらおうと待っていると、とても丁寧に対応し、いつどこで誰であろうと、アーティストになろうとしている人であれば熱心に作品を見てくださっていたことにあります。

Deborah Klochkoさんの講演「MOPAの活動について」

デボラ・クロチコさんの講演会を開催

“MOPA MAKES LEARNING VISIBLE “

サンディエゴの美しいバルボア公園の中にあり、近くには自然史博物館やアートミュージアムなどいくつかの美術館があります。設立されてからは43年になります。MOPAはただ写真を集めて見せるだけでなく、“MOPA MAKES LEARNING VISIBLE“を掲げてVisible Artについての教育を目指しています。毎年の来場者は12万人で、websiteには15.5万人が訪れます。コレクションは9,000点に及びます。美術館の中は広いスペースがあるため、3つの大きな展示を常時行ない、シアターや図書館(蔵書25,000冊)などもあるので連携を取りながら、レクチャーやパネルディスカッションといったイベントも積極的に行なっています。

どんなExhibitionを開催しているか

昨年の”7 billion others”は世界84カ国6,000人に45の質問をしているビデオで、社会問題と環境問題を取り上げようと企画されました。人種が違っても人は同じようなことを考えているのがわかり、貴重な展示会になりました。また、同時期に開催したのはHendrik Kerstensの”Model and Muse。20年以上、オランダの伝統的な衣装を着た自分の娘を撮影したものですが、2つの展示会とも人を扱うという共通点がありました。
現在開催中のものは”Defying Darkness”でこちらは全てMOPAの収蔵品からで「闇をどう表現するか」というもの、”Beauty and the Beast”は動物をただ表現するのではなく、人間とどう関わっているかを考えるためのもの、開期中には動物のぬいぐるみを被って撮影するイベントも行ないました。
変わったところでは、2008年に南アフリカのGary Schneiderの医学的技術を駆使したモノクロのセルフ・ポートレート、アメリカ写真史では重要な写真評論家Nacy Newhallの展示、2009年にはとてもリアルな昆虫とのコラージュで有名なJo Whaleyなど、多様なExhibitionを開催しています。
MOPAの過去のExhibition
http://www.mopa.org/7billionOthers

Awardについて

●Lou Stouman Award
91年に亡くなった彼は写真家であり、ドキュメンタリー映画の監督として、南北戦争とヒトラーを扱った作品で2つのアカデミー賞を受賞。ヒューマニティについて作品をつくり続けた彼の偉業に対して、MOPAは92年にAwardを設立。3~5年に一度受賞者を選んで2万ドルの賞金を提供してきました。2016年の受賞者Fazal Sheikhはアフリカ、イスラエル、パレスチナの難民キャンプを回って子どもたちを撮っていますが、彼は自分がやろうとしていることを深く考えて、ヒューマニティとアートをうまく結びつけています。
http://www.mopa.org/LouStoumenPrize

●Staking Claim: A California Invitational
カリフォルニアの新しい才能を見つけるためのもので、3年に一度、16名ほどが選ばれます。2010年に”Stae of Mind”として始まったもので、2013年に”Staking Claim”として引き継がれました。受賞者たちのexhibitionも開催されています。2013年の受賞者で興味深かったのはEricWilliam Carollの作品で、彼はインターネットからダウンロードした写真をプリントしてその中に穴を開けて、柱に通して写真を積み重ねました。新しい視点を持つことは重要なことだと思っています。
http://www.mopa.org/triennial

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難民、孤児、HIV、人権問題への取り組み

サンディエゴはアメリカでいちばん難民の多い地域です。そのため“World Refugee Day”と銘打って、国際機関とも連携しながら難民への教育も行なっています。
“Glogal Engagement at MOPA : Rwandan Orphans Project”ではルワンダ孤児たちの問題に取り組み、彼らに写真とのコラージュを教えました。エイズの子どもたちにも教えますし、また、学校の先生たちに写真を使ってどうやって教育すべきかということも教えています。7年目を迎えた”The Human Rights Watch Film Festival”にも参加し、昨年は60年代に起こったブラックパンサー(黒人解放組織)運動の映画を上映しました。同時上映したのは中国のアーティストのフィルムです。このような活動を行なっているのは写真を撮ったり教えるだけでなく、同時に対話を持つことが大切だと考えているからです。

さまざまな世代への教育活動

若い人々に向けては毎年異なるテーマでExhibitionを行なっています。11年目である今年のAnnual Youth Exhibitionのテーマは近くにあるサンディエゴ動物園100周年記念にインスパイアされた”Animal among us”。この地域の学生や子供たちに写真やビデオを通して表現を学んでもらおうというものです。「決まりを破る」ということをテーマに写真と絵画のコラージュなども行なっています。このプログラムによって子どもたちの家族も美術館に足を運んでくれています。
“SEPIA“と題して高齢者にデジカメを教えるプログラムもやっています。1,000人の方が参加されるうちの4人に1人は認知症ですが、この活動を通して高齢者の健康に寄与したいと考えています。
私たちが最も重要視しているのは、アートについて話し合ったり、写真作品を作ったりすることです。小さな子どもたちに写真の露出を教えるなどのさまざまなプログラムを実施し、美術館の方から学校へ出向いていく活動も行なっています。これらはCARE(Collaborative Arts Resources Educators)と呼ばれているプログラムですが、教育活動の中には”Global Education Initiative”という国際的な活動も含まれています。

最新テクノロジーも積極的にチャレンジ

4年前からSoapboxというiPadを大きくしたようなMultitouch tableを展示しています。これはMOPAのwebsiteの写真が見られたり、キューレターのように好きな写真を選んでそこに自分の声で感想を入れることができます。
iPadも使用していますが、QRコードを活用したり、最新の技術を取り入れながら家族で美術館を楽しんでもらえるように”Family Day Workshop”なども開催しています。

デボラ・クロチコさんの講演会を開催

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デボラさんが目指す美術館とは

“ MUSEUM TODAY SHOULD BE A PART OF THE WORLD, A PART OF THE TIMES IN WHICH WE LIVE“ これはアイルランドの写真家Olafur Eliassonの「現代の美術館は世界の一部、自分たちが生きている時代の一部であるべきだ」という言葉です。
私は美術館は生きているものであるべきだと思っています。もちろん、私たちは作品を収蔵したいと思っていますが、コレクションをするだけでなく、みんなと分かち合いたい。そういう意味では、いま開催中の”BOUNDLESS”というExhibitionのオープニングに子供たちがたくさん来てくれたことは非常に嬉しかったです。
私は写真は現代のメディアの中で最も重要であると考えています。それは視覚を通してコミュニケーションすることができるからです。今は誰もが携帯電話で写真を撮っていますが、その人たち全員が写真家になるわけではありません。でも、私たちは「写真とは何か」教えたい。それはパワーを生むものであり、力は変化を起こします。写真はクリエイティブなもので、世界を変えられるものでもあると思っています。

美術館でExhibitionをしたいと思っている方へ

写真家の皆さんは美術館に作品を見てもらいたいと思っていると思いますが、そのためにとにかくいちばん大切なのは”Make the work”作品をつくるということです。それもある一定期間、自分が真剣に向き合った作品、つまり熟成した作品を完成させることです。そして、見てもらうという活動、いわゆるプロモートにも時間とエネルギーを費やすべきでしょう。
お話してきたように、私たちの美術館では著名な写真家やすでに評価された写真家の個展やグループ展を開催しています。1つのExhibitionには3年ぐらいかけます。それは企画を考え、そのための資金を集める時間やプロモーションも必要だからです。
そういう中で美術館に直接、展覧会をしたいと訪ねても、それは難しいことです。美術館にアプローチするためのいちばんいい方法はポートフォリオレビューです。
キューレターやパブリッシャー、ギャラリストなどいろんな人に一度に会えますし、彼らはいろんな才能を見つけようとしていて、それによって何かしようと考えているからです。私たち美術館のキューレターも、レビューで気になる作品があったら、それを記憶に留めておいて、新しいExhibitionに当てはまるかどうか考えます。ですから、レビューに参加することはとても価値があります。どんどんポートフォリオレビューに参加してください。

デボラ・クロチコさんの講演会を開催

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参加者からの質問

Q1. 開催中のトーマス・ルフ展を見てきましたが、2メートルのポートレイトを前にして、見ている人はそこに写っている人物よりも写真そのものについて話していました。彼のように技法に重きを置くことについてどのように思いますか?

A1. 巨大なポートレイトによってルフは主題のスケール感を変えました。それは素晴らしいことだと思います。ただし、目新しい技法だけでは評価されません。表現したいことが先にあって、それに技法がマッチしているからこそ成功しました。技法という点について言うと80年代という時代も重要でした。こういう技法に取り組んだのが彼が最初だったからです。彼はまた作品を作るためにカメラを使うのを辞めました。いろんなソースから写真を集めてきて彼のアイディアのために変更を加えてリクリエイトしました。今、アンドレアス・グルスキーやスーザン・ダージェスなどカメラを使用しないで作品を作っている写真家は欧米に何人も存在します。しかし、彼はカメラを使わない手法についても最も早く取り組みました。いろんな写真家が同じようなことをしてもルフはいつもいち早くその技法にチャレンジしていて、常に新しい方法を生み出してきました。誰も見たことがないということは、表現の世界においては最重要です。

Q2. 日本のカメラや写真機材は海外で広く使われているにもかかわらず、日本の写真家はあまり世界で活躍していません。SAMURAI FOTOの皆さんのように世界に挑戦しようという写真家が少なく、日本は閉ざされているように感じますが、そんな私たちにアドバイスをお願いします。

A2. 日本には写真のギャラリーやコレクションしてくれる美術館が少ないという側面はありますが、逆に、アマチュアの写真グループはたくさんあると聞いています。海外から「閉ざされている」ということはないので、それは日本の人たちが閉ざされてしまっていると感じているだけではないでしょうか。フォトグラフィック・アートについて進歩が遅れている国は日本以外にもたくさんあります。例えば、メキシコはフォトジャーナリズムに重きが置かれていて、60年代になってアートという動きが出てきました。日本の現状を考えるとやはり、ひとりひとりが世界に積極的に出て行くべきではないでしょうか。世界に出て行くためには、まず、どういうことをしたいのか自分の考えをまとめていい作品を作ることです。その意味でも先ほど言ったようにホートフォリオレビューに参加することをお勧めします。現実的にたくさんのエキスパートに見てもらえますから、自分の作品を広めるには有効な手段です。アメリカには日本の写真を集めているSan Francisco Museum of Moddern ArtやThe Getty Museum、MFAH(The Museum of Fine Arts,Houston )などもありますから、そういうところとコネクションをつくるためにもレビューを活用してください。日本の写真家は海外で認められてからやっと日本で認められるようなところもあるようですから、皆さんにはどんどん海外に出てほしいと思います。

講演ダイジェスト動画

(最初のご挨拶と最後の「美術館でExhibitionをしたいと思っている方へ」のみ収録しています。sorry, this movie has only the first and the last.)

デボラ・クロチコさんの講演会を開催

 

Ms. Deborah Klochko,
We really appreciate to come to Samurai Foto although You’re so busy during travel. We were able to hear a lot of very interesting things about MOPA. Thank you for giving the valuable advice for Japanese photographers. We’re looking forward to seeing you again.