2015年2月22日勉強会の議題
- SAMURAI FOTOで開催する今後のセミナーについて(吉田先生)
- 「アートとは何か」を発表(前田)
- 用紙の特性研究と解説(村田)、FLトクヤマ / フレスコジクレーの使用感(吉田先生)
- 写真家・志鎌猛さんご夫妻の海外へ挑戦するためレクチャー
- 志鎌さんの作品を見せていただく
- 勉強会後、志鎌さんご夫妻を囲む食事会
「アートとは何か」の発表(前田有歩)
「アートとは遺産をつくる活動である」と結論づけた前田さん。歴史の文脈に「生き延びる術」という目的を与えて考えながら、自身の子どものころから魅かれていた絵画や数列、時間軸、思想や概念について見直した。そして、アート活動は未来の人々とのコミュニケーションである以上、美しいものでありたい。歴史の文脈に照らし合わせて、未来の人類にとっての遺産になり得るか考えながら、自分のアートをつくっていきたいと語ってくれました。
用紙の特性研究と解説(村田光司)、ハーネミューレ / ウイリアムターナーの使用感(吉田繁先生)
漆喰シートの表面に0.05~0.3mmの不規則なエンボスをつけてそこにインクを乗せるというフレスコジクレーは独特の質感を持つ。そのために使いこなしにはさまざまな注意が必要になるということを詳細なデータを元に村田さんが発表。吉田先生がなぜこの用紙を選んだかは日本だけのオリジナルの最先端技術によってつくられているからで、タングステン光源の下では立体感がとても感じられるからだという。また、その保存性のよさにも注目していると話されました。
志鎌さんご夫妻による海外へ挑戦するためのレクチャー
志鎌 猛(Takeshi Shikame)さん
デザイナーとして活躍していた志鎌さんが写真を本格的に始められたのは50歳を過ぎてから。それからまもなく海外のアート・マーケットに挑戦し、10年経ったいまではニューヨーク、ボストン、サンタフェと各都市ごとにいくつものギャラリーとの契約し、世界各地で写真展を開催。3年ほど前からは作品を売って生活できるようになったという。SAMURAI FOTOメンバーにとってはいわば憧れの生き方をすでに実践されている。撮影にも同行され、マネージメントとともに通訳を務められてこられた奥さんとともに、その道筋を語っていただいた。
http://www.shikamaphoto.com/
プラチナプリント+雁皮紙
4×5のカメラで撮影し、オリジナルフィルムからポジを起こし、そこから拡大ネガをつくり、雁皮製の印画紙に現像するというのが志鎌さんの作品。暗い森の絵だが、そのなかに微妙なトーンと非常に細やかな解像の森の細部が写し取られている。写真自体はA4ほどのサイズだが、不思議に見入ってしまう。こういう作品を撮り始めたきっかけは10年間かけて森の中に家をつくり終えた2001年。山道で迷い、ざわざわとした薄暗い森に偶然出会い撮りたいと思う。そして、現像液から浮かび上がる絵を見たとき、自分が撮ったにもかかわらず、こういう絵になるのかと感動した。そして、これをやったらおもしろいかなと思ったそうだ。
http://www.shikamaphoto.com/statement.html
なぜ、海外だったのか
写真家でなかったことから日本では何のツテもない、だったら、海外のギャラリーで見てもらおうと2006年、ご夫妻はニューヨークへ向かう。そのときに参考したのが左の本『photogragh』。これはギャラリーのリストで、どこにあって、どんな傾向の写真を好むかなどが載っている。これを見ながら、さまざまなギャラリーが集まるチェルシー地区で、アポイントなしでいつくかのギャラリーのドアを叩くとき、「一生分の勇気を使いました」と奥さんは話された。
ギャラリーを選ぶときの注意点
- 1つの都市につき1つのギャラリーと契約するのが基本。
- 自分の作品と全然毛色が違うところは避ける。たとえ、いいギャラリーだと思っても、契約してしまうとそうそう変えることはできないので、よく考える。
- 有名なギャラリーは契約作家が多いため、なかなか発表のチャンスが回ってこない。欧米の写真展は会期が2ヶ月近くあるものも多く、一年で8人ぐらいの展覧会しかしない。
- ギャラリーも人と人とのコミュニケーションになるので、気持ちが合う人がいるところを選んだほうがいい。
早道はフォトレビュー
志鎌さんは2006年のギャラリー訪問の旅で2つのギャラリーからいい返事をもらったそうだが、ギャラリーは直接訪ねていっても門前払いが基本。メールもゴミ扱いされることが多い。そして、志鎌さんもニューヨークで会った人に「ギャラリストに会いたいなら、フォトレビューが早道だ」と教えられたそうだ。そうして「レビュー・サンタフェ」の存在を知る。レビュー・サンタフェはヒューストンのFOTO FESTとポートランドのフォト・ルシーダと並ぶアメリカでは規模の大きいレビュー。レビューを受けるには当時6~8倍率の事前審査があった。それに見事受かったことがいまの海外進出のきっかけとなった。フォトレビューの準備で大切なこと
- 写真展がしたいのか、批評してもらいたいのか、ギャラリーと契約したいのか、参加目的を明確にする。
- どのレビュアーに見てもらうのか選ぶ際は、レビュアーのリストやネットから経歴やコメントを集めて、よく調べてから決める。人気のあるレビュアーは早く埋まるで早めの応募をする。
- 作品5点と連絡先が入ったポストカードなどと、作品とステートメント、プロファイルの入ったCDを準備して、パッと見たらあの人ねとわかるものを渡す。
- 作品やCVの載った自分のホームページは必須。
- 英語は語学力より「伝える」ことが大事。言葉の問題よりも、聞かれたことに対する答えを準備しておく。
志鎌さんご夫妻が伝えてくださったのは「夢は追えば叶う」ということ。「続けていれば必ず叶う」と教えてくださった。海外に出れば、きっといいことが待っているとも……。
海外に挑戦し始めて10年目の2014年には、スペインで100点を展示した写真展が開催された。実現した展覧会はご褒美のようでうれしいけれど、それで満足してはダメだと思っているそうで、写真展のオープニングに行くときも、撮影と次のプロモーションと3点セットにしているという。夢は叶うけれど、叶った先のハードルは高くなり、わからないことの連続で、経済的にもきびしい。それでも、おふたりは「楽しくやっていこうね」と決めていると話してくださった。おふたりのお話は私たちをとても勇気づけてくださいました。
フォトレビューの心得
- いちばん大切なのは「写真展がしたい」「ギャラリーと契約したい」など自分の目的を最初にいうこと。目的を明確に伝えて、あとは作品をちゃんと見てもらう。
- レビュアーのコメントもきちんと聞く。
- レビューは20分で、10分または5分前にコールがあるので時間配分を考える。
- 見せる作品は20~30点がベスト。
- 作品は大切に扱い、ポートフォリオはできるだけ美しく見せる。いかに見せやすくするかも考える。こちらが大切に扱えば、相手もそうしてくれる。
- 10人のレビュアーに会って1人ヒットするくらいが現実だと心得ておくほうがいい。
- いい評価をしてくれてもすぐに写真展というわけにはいかないので、1~2回返信がなくてもコンタクトを取り続けよう。
- 「ぜひ、この人」という人に会ったら、メールでお礼状を書き、ことあるごとに「いまはこういうことをやっています」というメールを。また、クリスマスカードを送ることはかなり得点が高い。
- 欧米の人はとても詳しいので、フォトグラファーからもいろんな情報がもらえる。お互いに頑張っている仲間同士なので知り合うことでモチベーションも上がる。レビューだけでなく、その合間などにそういうコネクションをつくる動きもしたい。
志鎌さんの作品をこれほど間近でじっくりと見られることは所蔵されているミュージアムや写真展でもない。デジタルにはない解像感と奥行き、滑らかさはSAMURAIメンバーに素晴らしい刺激を与えてくれました。
ニューヨークでの初めてのギャラリー巡りで使われたという『photogragh』には志鎌さんご夫妻の当時の懸命さが伺われる書き込みがあった。挑戦する精神を引き継いでいきたいとメンバー全員が感じました。